Attracting Flies

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『Tranquility Base Hotel & Casino』レビュー

アークティックモンキーズの新作『Tranquility Base Hotel & Casino』が素晴らしく良くて、ゼロ年代ロックに教養がある人に会う際はどんな話をしていても流れを無視して、大声で勧めることを義務化している。

勧める際は「1曲目の最初の歌詞が「俺はストロークスの一員になりたかっただけなのに、それが今ではこのザマだ」なんですよ。やばくないですか?」って定型文を3秒に一回リピートして勧めるようにしているのだが、元来、生物が存在しない荒野に作られた防音ルーム内でしか聞き取ることが出来ない声質をしているので、自分がどんなに頑張ってこのセリフを伝えても相手には「イ゛っギョグンメの!ズァイショオンガシガ!オルゥアスターックスッのイチィンにナリダクゥアッタァどぅあっけっぬぅあのに!イマジャボルボルボル」ナァンデスヨ!!ファイヤー!!!!」って聞こえてるかもしれない。不安だ。ただ伝わっているかどうかは置いといて、友人や知り合い以外でも上司や親や神などにアークティックモンキーズの魅力を伝えることができ、久しぶりのゼロ年代ロック警察としての活動に充実感を覚えている。

 

ゼロ年代ロック系のトピックとしてアークティックモンキーズの新作と同時期に出たビックニュースにエルレガーデンの再結成というものがある。なのでゼロ年代ロック警察としてアークティックモンキーズ新作啓蒙活動をする際に相手からエルレガーデン再結成の話題を振られることも多かった。そういう時は毒にも薬にもならない上っ面の「天気いいですね」くらいのニュアンスの感想を述べ、また「イ゛っギョグンメの!」と大声を出すようにしている。

エルレガーデンに関しては"今となっては"普通にいいバンドだなという感想ではある。"今となっては"と言葉に含みをもたせた理由を下記に記載しようと思う。

 

私が一番尖っていたアークティックモンキーズガチ恋勢だった高校時代はエルレガーデンが明確に敵であった。エルレガーデンはギターとベースとドラムを使っているからアークティックモンキーズのパクリでしかないと信じて疑っていなかったし、当時はエルレガーデンをdisることだけを自分の存在理由と定義しており、朝、昼、夜に必ず15分程度エルレガーデンを億の言葉でdisるスケジュールを組んでいた。結果としてエルレガーデンファンだった友達に「絶対お前を潰す」という言葉と共に絶縁宣言をされ、友人を一人失うという輝かしい実績も得た。

28年も人間社会を転がり続ければ角は取れる。角が取れても重心がおかしくてまっすぐ進めないことにも悩んだりするが、少なくともエルレガーデンをdisるのはダメという常識を取り入れることは出来た。そもそもだがエルレガーデンのファンに勝てるわけがないのだ。まず日本内での絶対的母数が違いすぎる。アークティックモンキーズのファンなんてクラスに1人くらいだったが、エルレガーデンのファンはクラスに5人くらい居た。単純に兵力が5倍違う。例えハンニバルが指揮を取ったとしても勝利することは難しいだろう。幸い今まで物理的に好戦的なエルレガーデンファンに出会ったことがないので私は無事に生きているが、もし尖ってた時代に好戦的なエルレガーデンファンに会ったらリンチされ、股間にエルレガーデンのメンバーの名前の刺青を掘られ、アレックスターナーと一生性交渉出来ない体に仕上げられていたことだろう。

 

私は学んだ。エルレガーデンに反逆しないことを。私は歌った。カラオケでMissingを。ついでに私は学んだ。ラッドウィンプスに反逆しないことを。私は歌った。カラオケで有心論を。私はライムした。君は人間洗濯機から始まる有心論のラップを。私は感涙した。君の名はで流れた前前前世に対して。

 

エルレガーデンに支配された日本の片隅で丸まった一人の社会人が口ずさむWhen The Sun Goes Downは誰の耳にも届くことなくただ月へ向かう。